◎日本の商業デザインは変わるか!?○
◎横浜発「食材ピクトグラム(絵文字)」○
◎デザイン世界のビジネスモデルの可能性○
◎食アレルギーや宗教の課題解決○
インターンシップ(就業体験)中の女子大生のアイディアをきっかけに、アジア太平洋経済協力=APEC(※1)の各国閣僚向け歓迎レセプションなどで世界に情報発信、ひいては日本の商業デザインを変革しうる可能性を持つに至ろうとしている試みがある。横浜市発の「食材ピクトグラム(絵文字)」(※2)だ。市共創推進事業本部のコーディネートもあり、ビジネスモデルへ大きく飛躍しそうな勢いだ。公民連携・PPPによるソフトパワーが炸裂したプロジェクトにスポットを当てる。
(平成23年3月取材時)
横浜市発「食材ピクトグラム」のプロジェクトは今、平成23年4月、(仮称)食材ピクトグラム普及推進協議会という団体設立を目指している。消費者メリットを第一に、食材ピクトグラムの普及啓発、安全な運用管理を行っていく。構成員は、ホテル、外食関係企業、食品メーカー、医薬品メーカーなどを想定している。
関東エリアでのプロジェクトの中心を担っている㈱大川印刷(横浜市)の大川哲郎社長は「協議会のテーマは、宗教・食物アレルギーといった理由で食に規制のある方々などへの課題解決策となる絵文字提供。レトルトの野菜カレーにも、肉類の原材料が使われていることもある。ピクトグラムが掲示されれば、一目で何が入っているかがわかるようになる。まずは誰もが安心して食事を楽しめるようにするために、食材ピクトグラムを広げながら、その中でパッケージ改訂などに伴うデザインの変更が仕事になってくることも期待しています」と説明する。
同じくプロジェクトの中で具体的にピクトグラム制作を担った㈱NDCグラフィックス(横浜市)の金江秀一氏は「最近のレトルトカレーの市場規模は約700億円。メーカーが、このパッケージに掛ける費用は3%~5%。5%だとすると35億円。あらゆる食品・医薬品の表示に採用されれば、大きなビジネスチャンスに発展する可能性がある」と解説する。
横浜プロジェクトの動きは現在、食材からトイレなどへの広がりを見せつつあるという。共創推進事業本部が手掛けた「横浜観光トイレマップ」(同報告書32頁参照)との連動だ。障害者などが利用しやすいユニバーサルデザイン(バリアフリー)のトイレ案内を、ピクトグラムで表示しようというのだ。新たな展開に発展しつつある。
プロジェクトの発端は大川印刷のインターンシップだった。平成21年8月から国際教養大学の女子学生を受け入れた。彼女は、留学生の友人が学食で毎回、同じメニューを注文していることを不思議に思い、理由を尋ねた。すると、彼女はイスラム教徒で豚肉を食べられず、学食には原材料の表示がないため、メニューを選ぶことができない、と回答した。食品関係企業への就職内定もしていたため、彼女自身、関心が高かった。ピクトグラムを使って、食べられるものと、そうではないものを、自由に選べる環境がつくれないかと考えた。
大川印刷がCSR活動に積極的だったこともあり、CSRをテーマとした市のイベントで、彼女のアイディアをまとめた企画書を林文子市長へ手渡すことができた。「共創フロント」が受ける形にして、共創推進事業本部のコーディネートが始まり、国土交通省のピクトグラムを制作したNDCグラフィックスの紹介を受けた。また2006年より先行して食材ピクトグラムの開発・普及に取り組んでいたNPO法人インターナショクナル(大阪市)と共に、公民連携でチームをつくり、横浜発の絵文字制作、22年11月開催のAPECでの情報発信という流れに至る。
卵、乳、豚肉など14種類の食材を表示したピクトグラムの完成は22年10月。事前モニタリングでは、国内外1500件のアンケート調査を実施し、「そば」「乳」がわかりにくいこともわかり、修正している。また、アーツコミッション・ヨコハマからの助成金を得て取り組みを広報するためのブックレットをつくり、共創推進事業本部の応援を得ながら市内ホテル、そして「APEC」へ働き掛けた。結果、市内の6つのホテルやAPEC・CEOサミット(世界のビジネスリーダー交流)レセプションなどで採用され、日本、また世界へ情報発信がなされた。
市共創推進事業本部は「横浜発祥の良いデザイン。課題解決にとどまるのではなく、付加価値のある新たなサインとして育ってもらえればと思う。プロジェクト当初のコンセプトは『おいしいピクトグラム』。基本情報だけではなく、食の美味しさまでをアピール、つまり新たな価値を創造できるものにしたいという考えだった」と当初からの趣旨であったと振り返る。
※1 APEC=アジア太平洋経済協力。21の国と地域が参加する経済協力の枠組み。2010年11月13日~14日、首脳会議、同年11月12日~13日、CEOサミットが、それぞれ横浜で開催された。
※2 ピクトグラム=絵文字、絵単語などと呼ばれる。視覚記号(サイン)のひとつ。非常口のピクトグラムが一般的。
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